熱量と狂気:起業家の生き様

左足首を骨折して、まだ左足に体重をかけることができず、自然自宅に篭ってしまうのですが、どんどんエアコンをつける時間が少なくなりました。そういうところでしか、夏を終わりを感じられないのが寂しいところです。

過ごしやすくなると、無性に本が読みたくなるのですが、最近読み終えた2冊の起業家にまつわる本をご紹介したいと思います。

江副浩正

就職、転職、結婚、旅行、家など、人生での大きな転機で「リクルート」と一切関わりがないという人は、あまりいないでしょう。そのリクルートの創業者は、江副浩正さん。東京大学新聞の営業を皮切りに、大学新聞での企業紹介からスタートして、「企業への招待」を創刊、様々な情報誌を立ち上げていく。

興味深かったのは、創業期に雇っていてパッとしなかったバイトのエピソード。田中角栄研究で有名になった立花隆さん(知の巨人とも呼ばれる)が、東大学生の頃にバイトで在籍していたのだそうだ。その立花氏のデビュー作が、「素手での仕上がった男たち」。リクルートの創業期の熱気を伝えた作品。

東大の受験エピソードも面白く、英語が苦手で好きになれなかったので、第二外国語のドイツ語で受験したのだそうだ。いや順序が逆だ。英語では勝負にならないので、勝ち目のあるドイツ語での受験ができる大学を探していたら、東大がその対象にあったのだ。自分の勝ち目のある土俵で勝負する、よくビジネスでは「選択と集中」というが、非常に正しい判断だと思う。

MBAコースで組織論を学んだとき、リクルートは格好のケーススタディの対象だった。当時は失われた10年の日本の停滞期(今もだけど)で、人材輩出センターとしての「リクルート」はとても高く評価されていました。

個人的にリクルートは、リクルートコスモス株譲渡の疑惑で大騒ぎしていた記憶が根強いのですが、今振り返ってみれば、東京地検特捜部が疑惑として大騒ぎしたかった、新興勢力のリクルートを屈服させたかった、というようにしか思えません。それは繰り返される、「ライブドア事件」と同じような構図だったのではないかと。

そのような、日本の現代史の暗部を見る思いがします。

結構分厚い本ですが、凄まじい熱量で、ページをめくる手が止まりませんでした。伝記として生い立ちから、お亡くなりになるところまで、大河ドラマを見ているようでした(毀誉褒貶が激しいのでNHK向きではありませんが)。秋の夜長におすすめの一冊です。

西和彦

アスキーの創業者であり、初期マイクロソフトの日本代表的存在といえば、西和彦さん。家庭用パソコンの先駆けのmsxという統一規格を作った人でもある。

西さんは、コンピュータ関連では非常な有名人ですが、アスキーの大混乱の報道しか印象にありませんでした。具体的にどんなことをしてきたのか、については、ご本人の自伝書「半生記」を読むまで知りませんでした。

1994年より前のパソコンを知らない人には、MS-DOSという言葉すら聞いたことがないかもしれません。Microsoftの躍進のきっかけは、創業当初のBASICというプログラミング言語より、このMS-DOSでDOS-Vと言われたIBM互換機パソコンのOSとして標準となったのを外すことはできないでしょう。ゲイリー・キルドールとのIBM-PCのOSコンペに勝利し、MS-DOSが標準仕様になったのが、全ての始まりなのですから。

コンピューターの歴史では、黒歴史の一つになるIBMにおけるオペレーティングシステムの競争を西さんの視点で見るのは面白いものです。

二人は決定的に違う

情報産業を作った成功者の江副さんと、とパソコン黎明期で活躍しながらその後失敗にまみれた西さん、二人とも熱気と狂気を孕んだ起業家ですが、決定的に違うものがあります。

一つに、東大に戦略的に受かった江副さんと、自信満々で臨んで1浪しても不合格で終わった西さん。そこになんとなく象徴的なものを感じます。別に東大生だから、どうこう、というのではないです。受験という一つの仕組みにおいて、「ドイツ語」という裏技的なものを上手く武器にして合格を勝ち取るか、馬鹿正直に予備校でガンガン勉強して玉砕したのか、という大きな違いがあります。もちろん、時代背景も異なりますが。

西さんの本を読んで感じたのは、「独りよがりが過ぎる」という一点にあります。アスキーを起業した当時のエピソードでは、有能な共同経営者に恵まれていますが、最後にはその二人と仲違いし、腹心とも、右腕とも、参謀ともいえる人を作れなかったところに、西さんの限界があったのだろうと。

西さんの反省記は、読んでいて興味深いのですが、読んでいて嫌味を感じます。自分が前に出過ぎているし、自分に良い影響を及ぼしてくれた人だけを持ち上げるのですから。そこに謙虚さのかけらも、人を信じて任せるという器量もない。

一方で、江副さんは全然違う。大胆な手を打つが、適材適所を心がけ、常に気を配っている。人に対する優しさや想いが強い。その一端は、適性検査を開発したところに現れる。内田クレペリン精神検査しかなかったところに、東大の教育心理学科のネットワークを生かしてSPIなどの新しい適性検査を開発している。

自分が持つネットワークを利用して、ドットを繋ぎ合わせるだけの西さんに対して、江副さんはネットワークの持つダイナミズムを利用して点から線、面、立体へとどんどん広げて、ネットワーク効果を最大化している。この辺りの違いが、最終的なビジネスの成否に結びついているように思う。

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